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中国史人物伝

泉のように湧きあがる知恵と滑稽で稷下を席巻した説客 淳于髠(戦国時代)(2) 極まれば

淳于髠(1)はこちら>>

淳于髠が斉の威王にしたとされる鳴かず飛ばずの逸話と同様の話がある。

春秋五覇のひとり楚の荘王に、伍挙が進めた隠語である。

似たような話がいくつもあると、

ひとつだけが真実で、他は創話であろう、

とつい考えてしまいがちであるが、いずれも真実であるとするならば、

「博聞強記な淳于髠が、二百五十年以上前の逸話を模倣したのではないか」

と、想ってしまいたくなるが、どうであろうか。

中国史人物伝シリーズ

荘王を輔佐した名宰相 孫叔敖

目次

酒極まれば

斉の威王は後宮で酒宴をもよおし、上機嫌であった。
そこに召しだされた淳于髠は、威王から酒を賜い、
「先生は、どれくらい飲めるのか」
と、訊かれた。
「臣は一斗(約二リットル)でも酔いますし、一石(約二〇リットル)でも酔います」
淳于髠がそう応えると、
「一斗で酔うてしまうなら、一石も飲めないじゃないか」
と、威王から怪訝そうに指摘された。
「大王の御前で酒を賜れば、かたわらに執法官がおり、後に御史(監察官)がおりますゆえ、
臣は恐懼し、俯伏しながら飲むことになりますゆえ、一斗も飲まないうちに酔ってしまいます」
威王がなにもいいかえしてこないのをたしかめてから、淳于髠は話をつづけた。
「親が大事な客人をむかえたら、われは袖をあげて屈んで跪き、酒のお相手をいたします。
ときには残りものをいただき、觴(さかずき)を捧げて賓客の長寿をことほいだりいたしますれば、
二斗も飲まないうちに酔ってしまいます。
久しく会っていなかった友人に偶然出くわしたら、歓びあって語らいますから、
五、六斗ほど飲んでようやく酔います」
では、どのような状況でなら、一石も呑むことできるのか。
「州閭(村里)の集まりがあれば、男女がいりまじって坐り、酒に酔ってとどまり、
六博(すごろく)や投壺を楽しんでから、逢引して、ふたりきりになります。
男女が手を握りあっても罰せられず、みつめあうことも禁じられず、珥(みみかざり)がまえに、
簪(かんざし)がうしろに落ちているようなところでなら、われもつい楽しくなり、
八斗くらい飲んでも酔わないでしょう。
日が暮れて、宴もたけなわになると、隣の人と杯を交わし、ともに酔ってたがいにもたれかかりあい、
男女がいりまじって坐り、履が脱ぎすてられ、杯や皿があたり一面に散乱してしまいます。
堂上の燭が消え、客人が帰っていくなか、われだけが主人に引きとめられました。
羅襦(うすものの短衣)の襟をほどき、微かな香りを嗅ぐ。
このとき、わが歓びが頂点に達し、一石を飲むことができるのです。
ゆえに、酒極まればすなわち乱れ、楽しさ極まればすなわち悲しむ、と申します。
万事同様です。なにごとも極めてはいけません。極まれば衰えてしまいます」
淳于髠は酒の楽しみにかこつけて、酒もほどほどに、と威王を諷諫してみせたのである。
「なるほどな」
威王は長夜の宴をやめ、淳于髠に諸侯の接遇をまかせた。
以後、威王は酒宴をもよおす際、つねに淳于髠をかたわらに侍らせた。

類は友を呼ぶ

淳于髠が、一日に七人の人物を斉の宣王に推挙した。
「士は千里にただひとりいたとしても、肩をならべて立っているほど多く、
聖人は百世にただひとりあらわれたとしても、踵をつけて至るほど多い、ときく。
それなのに、いま、先生は一朝に七人もの士を薦めてくださった。なんとまあ衆いことよ」
宣王からそう皮肉を浴びせられた淳于髠は、平然として、
「そうではございません」
と、返し、
「鳥は翼がおなじものどうしで集まり、獣は足がおなじものどうしで行動をともにします。
いま、柴胡や桔梗を沮沢(湿地)に求めようとすれば、何代かかってもみつけることはできませんが、
睪黍や梁父(ともに山の名)の陰(北)へゆけば、車がいっぱいになるくらい載せられましょう。
物には、おのおの類がございます。われは、賢者の類にございます。
王が士をわれにお求めになられるのは、水を河水から汲んできたり、
火を燧(ひうち)から取るようなものです。
われはまた士をお薦めしたいとおもうております。どうして七人だけにとどまりましょうや」
と、詭弁を垂れた。

伯楽一顧

蘇秦の弟である蘇代が、燕から斉へ遊説にやってきて、淳于髠に面会を求めてきた。
「ある人が、駿馬を売ろうと三日つづけて市に立ちましたが、たれからも声をかけてもらえませんでした。
そこで、すぐれた相馬眼をもつ伯楽に頼みました。
一日分の日当をお渡ししますので、市にきていただき、馬のまわりをめぐって馬を視てから、
立ち去りがたそうに振りかえって馬をみていただきたい、と。
伯楽がいわれたとおりにすると、馬の値が一日にして十倍になったそうです。
ところで、いま、臣は駿馬として斉王に謁見したいとおもうのですが、引き立ててくださる方がございません。
そこで、先生に臣の伯楽になっていただきたいのです。白璧一双と、黄金千鎰をさしあげますので」
そう頼みこまれ、
「謹んでお引き受けいたしましょう」
と、快諾した淳于髠は、斉王に蘇代を推挙し、引見してもらった。
斉王は、蘇代を大いに気にいった。

心を看抜く

淳于髠は、ある客の手引きで梁(魏)の恵王に謁見した。
恵王は左右の近臣を退けて引見したが、淳于髠はひとことも発しなかった。
恵王は再度同様にして淳于髠を引見したが、やはりひとことも発しなかった。
退出後、手引きしてくれた客から、
「大王は、先生は寡人を語るに足らぬりとお思いか、と仰せです」
と、告げられた。これに対し、
「そりゃそうでしょう。われが初めて王にお会いしたとき、王のみ心は馬に乗ることでいっぱいでした。
つぎにお会いしたとき、王のみ心は音楽にうばわれておりました。
それゆえ、われは何も申しあげなかったのです」
と、淳于髠は応えた。
淳于髠は、ふたたび恵王に召された。
こんどは語りだすと話が竭きず、会見は三日三晩におよんだ。
「淳于先生は、聖人じゃ」
恵王は淳于髠を激賞し、
「卿相の位をさずけよう」
と、いったが、淳于髠はそれを辞して去り、終生仕官しなかった。

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