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中国史人物伝

泉のように湧きあがる知恵と滑稽で稷下を席巻した説客 淳于髠(戦国時代)(1) 鳴かず飛ばず

紀元前四世紀後半、斉の威王や宣王は、天下の学者を招き、

首都臨淄の城門のひとつである稷門のほとりに邸をあたえ、自由に講学をさせた。

孟子や荀子も名を連ねた稷下の学士のなかで、
淳于髠
は、異彩を放っていた。

博聞強記、滑稽多弁で形容されるかれは、諸子百家のどの流派にも分類されず、

滑稽をもって稷下で名をあげた。

かれは説客としても活躍し、諸侯に使いして辱められたことがなかったという。

斉人は、淳于髠の知恵があふれでて尽きないさまを、

――轂過を炙る髠(『史記』孟子荀卿列伝)。

と、頌めた。

中国史人物伝シリーズ

目次

贅 婿

淳于髠は、身の丈七尺(約一五七センチメートル)足らずという短軀の持ち主であった。
かれは、春秋時代の斉の名相晏嬰の人となりを慕った。
晏嬰は、身長が六尺(約一三五センチメートル)に満たなかったという。
淳于髠は、おなじ矮軀でありながら大きな声望を得た晏嬰におのれを重ねたかもしれないが、
それよりも晏嬰の君主への説きかたを倣ったのではなかろうか。
晏嬰は君主を諫めるさい、相手の顔色を犯すことがなかった。
淳于髠もそれに倣い、直諫を避け、隠微の言をもって諷諫するよう心がけた。
かれについては、
――淳于髠は、斉の贅婿なり。
と、『史記』(滑稽列伝)に記される。
贅婿は、『字通』(白川静著)によれば、
「入りむこ。聘財無く、妻の家に寄食する者」
の意である。
斉の王族の女人を娶ったのであれば、高貴な身分を想起させる。
一方、後者によれば、妻の家に寄食するほど貧しい出自であったと解釈えざるを得ない。
はたして、真相はいずれであったろうか。

鳴かず飛ばず

斉の威王は酒色にふけり、長夜の宴をもよおした。
そのため、威王が聴政の席につくことはなく、政治を卿大夫に任せきりであった。
諸侯はそこにつけこみ、こぞって斉に侵攻し、斉は存亡の危機にさらされた。
それなのに、左右の近臣はたれも威王を諫めようとしなかった。
威王は、隠を好んだ。隠とは、謎かけである。
そこで、淳于髠は威王に隠を進めた。
「大きな鳥がいて、王の庭に止まってございます。三年飛びもしなければ、鳴きもしません。
この鳥は何かご存じでしょうか」
「その鳥は飛ばなければたいしたことはないが、ひとたび飛べば天まで飛びあがろう。
鳴かなければたいしたことはないが、ひとたび鳴けば人を驚かそう」
そう応えた威王は、朝廷に諸県の令長七十二人を召し集めると、即墨の大夫を賞し、阿の大夫を誅した。
これをきいて諸侯は振驚し、みな奪い取った地を斉に返還した。
斉ではその後、二十年以上にわたり威令が布かれた。

豚蹄穣田

威王八年(紀元前三四八年)、楚が大軍を発し、斉に攻めこんできた。
「趙へゆき、援軍を請うてもらえまいか」
淳于髠は威王からそう命じられ、贈物として金百斤と車馬十駟を渡されると、天を仰ぎ、
冠のひもがすべて切れてしまうほど大笑いした。
「これでは少ないと申すのか」
「どうしてそんなことを申しましょうや」
「ならば、何かお考えがあってのことか」
威王にうながされ、淳于髠は、
「いましがた臣が東からまいりましたおり、豚の蹄一本と酒一盂をお供えし、
おもしろいことをいって田地を祀っている者がおりました」
と、話し、威王の興味を誘った。
「ほう、何といったんじゃ」
「作物がかごいっぱい、いや、車いっぱい穫れますように。
五穀は豊かに実り、家がいっぱいになりますように」
「なんと厚かましい」
「でしょう。臣はそれをおもいだしてしまい、つい笑ってしまったのです」
淳于髠の話をきいて哄笑した威王は、贈物を黄金千溢、白璧十双、車馬百駟に増やしてくれた。
淳于髠はそれをもって趙へゆき、趙王を説いた。
すると、趙王は救援要請に応じ、精兵十万、兵車千乗をつけてくれた。
これをきいて、楚軍は夜のうちに撤兵していった。
この話から、
「豚蹄穣田」
あるいは
「豚蹄一酒」
なる四字熟語が生まれた。
いずれも、わずかなもので多くの見返りを期待するという意である。

労勌の功

斉が、魏を伐とうと軍旅をもよおした。
すると、淳于髠が斉王に謁見し、
「韓子盧は、天下にきこえた俊足の犬です。東郭逡は、海内にきこえた狡兎です」
と、斉王の気を引こうとする発言をした。
「うむ」
「韓子盧が東郭逡を追いかければ、どうなりましょうや」
「どちらも足が速いのなら、勝負がつかぬのではないか」
「山を三周し、山頂まで五たびのぼったところで、兎はまえに、犬はうしろに倒れ、
疲れ果てたあげくその場で死んでしまいました」
「ほう」
「農夫がそれをみて、何の苦もなく犬と兎を捕獲してしまいました」
「なんと――」
「いま、斉と魏が久しく反目し、兵力を消耗し、民は疲弊してきております。
臣は、強秦や大楚がそこにつけこんで、あの農夫のようなことをするんじゃないかと恐れてございます」
これをきいて斉王は懼れて、出師をとりやめた。

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