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中国史人物伝

勇猛な小心者 項羽と劉邦を恐れさせた刑余の王 英布(黥布)(前漢)(4) 陥穽

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かつて始皇帝をみて嘆息し、

「ああ、男と生まれたからには、あのようになりたいものだ」

と、いった劉邦が、その地位についた。

劉邦は、部将が城地を略定すれば、それを惜しみなく与えていたが、

項羽の脅威から解放されたとたん、功臣たちに猜疑の目をむけるようになった。

中国史人物伝シリーズ

目次

陰 謀

紀元前二〇一年十二月、劉邦は陳で諸侯会同を催した。
英布も陳へゆき、皇帝に拝謁した。
そこで、信じられない光景に出くわした。
同じく謁見に臨んだ韓信が、捕らえられたのである。
あまりに突然のことであったため、満座の諸侯は茫然とこの大事件を眺めるしかなかった。
――殺されてしまうのか。
韓信は洛陽に移送され、生命までは取られなかったが、淮陰侯に貶降されてしまった。
功績の大きい韓信でさえ、疑念をいだかれれば罪に問われてしまうのである。
「主上に疑われないようにせねばならんな」
と、肝を冷やした英布は、翌年に洛陽へ、その二年後には長安へおもむき、皇帝劉邦に拝謁し、忠勤に励んだ。
そんな英布でも、まさかおのれの妄想が破滅の端緒になろうとはおもってもみなかったであろう。

同功一体

紀元前一九六年の春に、長安から使者がきて、
「淮陰侯(韓信)が、謀叛のかどで誅されました」
と、報されると、英布は心に恐れをいだいた。
その夏、英布が狩りをしているさなかに、都から器が届けられた。
「あけてみよ」
器のなかに入っていたものをみて、英布は息を吞んだ。
醢(塩づけ)であった。醢は極刑であり、
――謀叛を企めば、このようになるぞ。
と、脅されたのである。
「梁王(彭越)です」
そうきかされて、英布は生きた心地がしなくなった。
韓信や彭越は、英布と同じくらいの功績を挙げ、似たような立場にあった。
つぎにたれに禍が及ぶのかを考えると、
――われしかいない。
と、英布は大いに恐れ、
「兵を配置し、国境を哨戒せよ」
と、重臣に命じ、異変に備えさせた。

嫉 妬

淮南の夏は、暑い。
英布が寵妾を侍らせて、くつろいでいた。
そのさなかに、かの女が、
「賁赫さまは、長者でございますね」
と、ほめた。すると、英布は怒り、
「なんで、なんじはきゃつのことを知っているんじゃ」
と、責めた。
「こないだわらわは病気になり、医者に診てもらいました。
その医者の家が、賁赫さまの家の向かいにございました。わらわは、何度も医者の家に通いました。
そこで賁赫さまはわらわに手厚く贈り物をしてくださり、ともに酒を吞んでいました」
寵妾はそう事情を説明したが、
――ふたりは、密通しているのではないか。
と、おもいこんでいる英布は頑としてききいれない。
それから、賁赫は病と称して出仕しなくなった。
嫉妬の炎に燃え狂う英布は、ますます怒り、
「賁赫を捕らえよ」
と、捕吏に命じた。
「邸には、いませんでした」
「くそっ、逃げられたか。まだ遠くにはいっておらんはずじゃ。追えっ」
英布は、執拗に賁赫を追わせた。

悪循環

「逃げられました」
捕吏からそう報告を受けて、
――賁赫め、長安に逃げこんだな。
と、英布は唇をかんだ。
――賁赫は、変事を上書したであろう。
そうおもった英布は、
――賁赫は、すでに淮南国の機密を漢に洩らしたであろう。
とも、疑った。
ここで、英布は下手に動かずに長安の動向を注視すべきであった。
じつは、この時点では劉邦はおろか、相国(宰相)の蕭何までもが、
――英布が謀叛を起こすわけがない。
と、断じていた。
それゆえ、落ち着いて対処すれば無事にやりすごせたであろうと思われるが、
剛腹ではなかった英布は、妄想が過ぎ、
――取り返しがつかないことになった。
と、決めつけてしまった。
おもいこみが激しかったがゆえに、悪循環にはまってしまったのである。
かれの疑心に拍車をかけるように、漢の使者が淮南にきて、くわしく調査をしはじめた。
――もはや、どうしようもない。
紀元前一九六年七月、追いつめられた英布は、賁赫の一族をみな殺し、兵を挙げて漢に反旗を翻した。

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