剛直ゆえに次の丞相で終わった高節の儒者 蕭望之(前漢)(5) 輔政
黄竜元年(紀元前四九年)冬に宣帝が病臥すると、蕭望之は前将軍光禄勲を拝命し、
侍中の史高や太子少傅の周堪とともに新帝の輔政を命じられた。
そして、十二月に宣帝が崩じ、太子奭が即位した。これが元帝である。
儒学を好み、柔仁な元帝は、太子であったとき、
宣帝が法吏を重用し、厳格に刑罰を下すのを気にして、
「陛下はたいへん厳しく刑を用いられております。儒生をお用いになられるべきです」
と、言上したところ、宣帝は色をなしてかれを叱りつけ、
「わが家を乱すのは、太子じゃ」
と、嘆き、廃嫡すら考えた。
廃嫡を免れた元帝が即位すると、儒教に基づく政治への移行が試みられた。
中国史人物伝シリーズ
蕭望之(1) 従志
蕭望之(2) 宮仕え
蕭望之(3) 扶政
目次
輔 政
蕭望之と周堪は、師傅であったことから、元帝から尊重された。
元帝が即位すると、二人はしばしば暇なおりに謁見をたまわって、
治乱について申しあげ、王事について陳べた。
また、蕭望之は宣帝に近侍していた劉更生を重んじ、
――宗室に忠直で、経書に明るく学問に通じている。
と、推薦して給事中に擢用してもらい、侍中の金敞とともに元帝の左右に侍り、帝の過失を諫め、補わせた。
劉更生は、劉邦の異母弟劉交の玄孫にあたり、麒麟閣十一功臣のひとり劉徳の子であった。
そして、この劉更生こそが、『説苑』『新序』『列女伝』などを著し、『戦国策』を編纂した劉向その人である。
蕭望之、周堪、劉更生および金敞の四人は、心をひとつにして輔政をおこない、
元帝に古の制度を採用するよう勧め、元帝はこれに心をむけて採納した。
一方で四人は、外戚の許氏と史氏が高位にありながら放縦であり、
中書の宦官弘恭と石顕が権力をほしいままにしていることを患苦した。
反 目
宣帝の即位当初、霍氏が尚書を宰領しており、
おのれに不都合な上書を却下し、帝まで上せないようにしていた。
そこで、霍光の死後、宣帝は中書令(皇帝の秘書官長)が上奏文を皇帝に直接渡し、
尚書を経ることなく上奏できるようにした。
こうして、中書令になった弘恭と石顕が重用されるようになった。
二人は、大司馬車騎将軍の史高と示しあわせ、常に故事をたてにとり、蕭望之の意見に従わなかった。
その結果、蕭望之らと史高、弘恭、石顕のあいだに大きな溝ができた。
政の根本である中書に宦官を用いるのは、
国の旧制ではなく、刑人を近づけてはならないという古の道理にも違うている。
蕭望之はそうおもい、
「中書には、士人を起用なさいますよう」
と、元帝に進言した。
しかし、元帝は即位したばかりで、大規模な人事異動には消極的であった。
そこで、劉更生を宮中から出して宗正(宮内大臣)とした。
会稽の鄭朋
蕭望之と周堪は、しばしば名儒や秀才を元帝に薦め、諫官に据えた。
会稽郡の鄭朋という者が、蕭望之に取り入って登用してもらわんとして、
「車騎将軍の史高が、食客を遣わして郡国で姦利を得ております」
と、上疎し、外戚である許氏や史氏の子弟の罪過についても言及した。
そして、蕭望之に書翰をおくった。
「将軍は周公や召公の徳をお備えになり、(孟)公綽の気質(清廉寡欲)がおありになり、
卞荘子の威がございます。耳順の年に至って折衝の位(外務大臣)をふみ、将軍を号するに至りましたこと、
まことに士の極致でございます。窟穴(にいる隠士)黎庶(庶民)はよろこばない者がなく、
みな将軍をその地位にふさわしいお方である、と申してございます。
いま、将軍は管晏(管仲と晏嬰)のようになれば、それでよろしいのでしょうか。
それとも日が仄くまで道を行うた周公や召公のようになろうとしておいでなのでしょうか。
もし管晏のようになればよいと仰せならば、やつがれは帰郷し、隠者として終えるまでのことです。
もし将軍が周公や召公の遺業を興し、みずから日が仄くまで兼聴(広く聞く)されるおつもりでしたら、
やつがれは区々たる身を竭し、万分の一を奉じる所存です」
蕭望之は鄭朋と面会してその説を納れ、意をこめて接待した。
鄭朋は蕭望之を称賛する一方、史高を非難し、許氏や史氏の過失をあげつらった。
ところが、鄭朋に奸邪なふるまいが目立ったため、蕭望之は鄭朋と絶交した。
鄭朋はこれに怨恨をいだき、反転して許氏や史氏に取り入らんと求め、以前にした発言について、
「みな周堪や劉更生がわれに教えたこと。われは関東人ゆえ、そんなことどうやって知るのですか」
などと、いいだした。
侍中の許章が、元帝の命で鄭朋を引見し、復命した。鄭朋は退出すると、
「われは主上に謁見し、前将軍(蕭望之)の小過五と大罪一を申しあげた。
かたわらにいた中書令が、その状況を知っている」
と、揚言した。
これをきいて蕭望之は、
「鄭朋は、何と申したんじゃ」
と、弘恭と石顕に問いただしたものの、ふたりはあいまいな対応に終始した。
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