交州で三十年仁政を行った呉末の名将 陶璜(三国 呉・西晋)(2) 交州刺史
蜀漢を滅ぼした魏から受禅した晋が、呉にそむいた勢力を通じて
交州にまで触手をのばしてきた。
交州の地理に明るく、軍事に心得があった陶璜は、
呉の皇帝孫皓から交阯を攻略するよう命じられた。
陶璜は緒戦で敗れたものの、海路より九真にむかい、
建衡3年(271年)、ついに九真を攻め陥とした。
中国史人物伝シリーズ
目次
交阯攻略
進 軍
——つぎは交阯じゃ。
建衡三年(二七一年)七月に、陶璜は九真から兵を北上させた。
——南中(益州南部)から救援がくれば、面倒じゃ。
と、危惧した陶璜は一計を案じ、董元の軍から鹵獲した錦物数千匹を、扶厳の賊帥である梁奇に贈り、
交阯と南中の通交を遮断するよう要請した。
梁奇はこれを快諾してくれたばかりか、一万余の兵を率いて陶璜を援けにきてくれた。
「これで、交阯は孤立したも同然じゃ」
勇躍した陶璜はさらに兵を進め、交阯城を攻め囲んだ。
誓 約
城を包囲してから百日経たないうちに、楊稷らが降伏を申し出てきた。しかし、陶璜はそれを許さず、
「糧食がないのなら、くれてやる」
と、いい、城内に糧食を送り、戦いを続けさせた。
「せっかく降を申し出てきているのですから、容れるべきです」
と、諸将がこぞって諫めてきた。これに対し、陶璜はつぎのように返した。
「霍弋はすでに死んでおるゆえ、援軍など来ない。
与えた糧食が尽きるのを待ってから降を受ければ、きゃつらは罪にならず、われらは義行を取ったことになる。
それに、内々には民を訓え、対外的には鄰国を懐けることになり、よいことずくめではないか」
三年前、晋の南中監軍の霍弋が楊稷や毛炅らを交阯に遣わした際に、つぎのような誓約をおこなった。
「もし賊に城を攻め囲まれた場合、籠城をはじめてから百日しないうちに降伏したなら、家属を誅する。
百日を過ぎてから城が陥ちたのなら、われがその罪を受けよう」
もはや交阯は陥落を免れない。それならば、楊稷らにこの誓いを果たさせてやったほうがよい。
それが、陶璜なりの敵将への配慮であった。
交州刺史
南中からの援軍があらわれないまま、百日の期日が過ぎた。
——そろそろ城内の糧食が尽きよう。
陶璜が胸裡でそう推量したちょうどそのとき、楊稷らがふたたび降伏を申し出てきた。
——敵ながらあっぱれ。
陶璜は心中で楊稷らの労をねぎらいつつ、降をいれた。
これにより、交阯だけでなく、九真、日南も八年ぶりに呉の版図に収めることができた。
この成果を、孫皓が喜ばなかったわけがない。陶璜はこの功により交州刺史に任じられた。
降者の末路
陶璜らは楊稷とともに降ってきた毛炅の壮勇を異とし、赦してやろうとおもった。しかし、
「なにとぞ、毛炅は殺してくだされ」
と、部将の脩允が固く請うてきてきかなかった。
むりもない。
脩允は、合戦で毛炅に殺された脩則の子であった。
しかし、陶璜は許さなかった。
その後、毛炅が密かに陶璜を襲撃しようと謀っていたことが発覚した。
陶璜は毛炅を捕らえ、後ろ手に縛りあげて、
「晋賊め」
と、怒声を浴びせた。毛炅も負けじと、
「呉の狗め、賊のほうがましじゃ」
と、いい返した。脩允はその腹を剖きながら、
「これでもまだ賊をなせるか」
と、罵声を浴びせると、
「孫皓を斬りたい。なんじらの父なんぞ、死んだ狗じゃないか」
と、毛炅が悪罵をやめないので、やむなく斬り殺した。
また、楊稷は建業へ移送される途中、合浦で発病し、世を去った。
助 言
隣の広州の刺史であった滕修は南方の賊を何度か討伐したものの、平定することができなかった。
「南岸(海南島)はわれの塩と鉄をたよりにしているので、
交易を断ってしまえば、みな武器を壊して田器(農具)にしてしまいましょう。
二年すれば、一戦で滅ぼせましょう」
苦慮する滕修に、陶璜はそう助言してあげた。
滕修は陶璜の意見に従い、賊を破った。
人民の思慕
九真郡の功曹の李祚が、郡ごと晋に投降した。陶璜は将を派遣して九真を攻めたが、勝てなかった。
この軍の将黎晃は李祚の舅で、李祚に降伏を勧めた。これに対し、李祚は、
「舅は呉の将、われは晋の臣、ただ力をくらべるのみ」
と、返した。そこで、呉軍は李祚に通知した投降期限を踰えてから九真城を攻め、これを抜いた。
孫皓はこの戦果を喜び、陶璜を、
「使持節・都督交州諸軍事・前将軍・交州牧」
に任じた。
交州の武平、九徳、新昌の地は険阻で、そこに蟠踞する夷獠(西南夷)は勁悍で、
何代にもわたり従わなかった。
陶璜は夷獠を征討し、武平、九徳、新昌の三郡および九真属国の三十県余りを新たに置いた。その後、
陶璜は武昌の都督に遷任されて晋の侵攻にあたることになり、合浦太守の脩允が後任の交州牧になった。
しかし、
「陶公を連れていかないでください」
と、嘆願した交州の人民が千人を超えた。
そのため、陶璜は交州に還された。
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