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中国史人物伝

五行説を創唱し、天を談じた陰陽家の始祖 鄒衍(騶衍)(戦国時代)

人間世界と魔物の世界の調和を保つ特殊能力を持つ

平安時代の陰陽師 安倍晴明の活躍を描いた小説『陰陽師』が、

21世紀初頭に人気を博し、映画もシリーズ化されている。

中国から朝鮮半島を経由して日本に伝来したとされる陰陽道の源流をたどってみると、

戦国時代の諸子百家に“陰陽家”なるものがあり、その始祖とされるのが、
鄒衍(騶衍)
であった。

鄒衍は紀元前四世紀末に活躍した思想家で、

“五行相勝説(五徳終始説)”や“大九州説”を提唱したことで知られ、

諸侯の間を遊歴して尊敬され、礼遇された。

現代の日本人も、鄒衍の学問に多大な影響を受けている。

中国史人物伝シリーズ

目次

三鄒子

斉には、
鄒忌
鄒衍
鄒奭
という三人の鄒子がいた。
鄒忌は、威王の琴の師から宰相に昇った人物である。
鄒奭は鄒衍の思想を継承し、それを発展させた人で、美文で名を馳せたことから、
壮大な学説を展開した鄒衍とあわせて、
――天を談ずる衍、龍を彫る奭。(『史記』孟子荀卿列伝)
と、斉人から頌められた。

学 究

鄒衍は斉の出身で、儒学を学び、仕官を求めたものの用いられなかった。
――どうすれば、仕官がかなうのか。
思索を巡らした鄒衍は、為政者が淫侈に奔るのをみて、
――これでは、民の模範にはなれぬ。
と、悲観した。
かれは自然現象の変化を陰陽の交替により説明した陰陽説に着目し、
深く陰陽の消息を観て、『怪迂の変』『終始大聖』を著した。
その論調は、まず身の回りの小さな事物を取り上げてからそれを推し広げ、
無限大の事物にまで説き及ぶようなものであった。
まずかれが生きていた当時から遡って黄帝の世まで記し、単なる事跡の列挙にとどまらず、
世の盛衰にまで述べ及んだ。
次いで禨祥(吉凶の前兆)や度制(決まり)を記載し、
それを推し広げて天地開闢以前の何もない状態にあった時期にまで至った。

五行説

――陰と陽が交わって木、土、水、火、金という五つの元素が生まれ、万物はこれらにより成り立つ。
鄒衍が創唱したこの考え方は、
「五行説」
と、称された。
漢代には五行説と陰陽説が結びついて陰陽五行説となり、
漢王朝の正当性を支持する思想とされ、世俗に浸透した。

五行相勝説

鄒衍は著作にて、中国の名山、大川、通谷(深い谷)、禽獣、水土に生殖する生物や珍奇な物を列記し、
それを推し広げて海外の人がみることができないようなものにまで説き及ぼし、
天地が分かれて以来、神羅万象が木、火、金、水、土という五行の徳の転移によることを導き出した。
これが、鄒衍の思想の基礎をなすとされる五行相勝説である。
古代中国には時季に応じて政治をおこなうという時令思想があり、
鄒衍はこの考えを五行説に融合させ、木、土、水、火、金という相剋の順で循環する、と提唱した。
木は土に剋つ
土は水に剋つ
水は火に剋つ
火は金に剋つ
金は木に剋つ
五行説によると、黄帝は土徳、夏王朝は木徳、商(殷)王朝は金徳、周王朝は火徳にあたり、
これに替わるのは水徳の王朝ということになる。
この考えは秦の始皇帝に採用され、漢代には董仲舒により天人感応説に発展された後、
讖緯説の基礎にもなった。

大九州説

また、鄒衍は、こんなことも考えた。

儒者のいう中国とは、天下の八十一分の一に過ぎぬ。
かりに中国を赤県神州と名づけておくが、そこには九つの州がある。
禹が定めた九つの州がこれに相当するのであるが、これは州とは呼ばない。
中国の外に赤県神州のようなものが九つあり、これこそが九州である。
そして、大海があってその外をめぐっている。これこそが天地の際である。

世界が八十一州で構成される、という鄒衍の考え方は、
「大九州説」
と、称され、これに多大な影響を受けた斉や燕の方士により、神仙思想に昇華された。

談 天

鄒衍の説、特に五徳転移の考え方は、各国の諸侯を惹きつけた。
諸侯が覇権をめぐり争い、衰えて久しいとはいえ、なお命脈を保つ周王朝に替わる
新たな秩序の出現が望まれていたところに、
鄒衍が五行相勝説を提唱し、王朝の交替が不可避であることを論理づけた。
自然界は常に変化している。王朝もそれに応じて替わらなければならない。
この考え方は、孟子の放伐論などとともに、易姓革命を正当化する論拠として諸侯に受け容れられた。
また、鄒衍は、自説を仁義節倹や君臣上下、親族の間が踏み行うべき道に帰結させた。
このあたりが、みずからは下剋上により成り上がりながら、臣下に対しては君臣の道を遵守させたい
と望む諸侯の心にかなったのかもしれない。

五行説に多大な影響を受けたのは、後世の中国人ばかりではない。
「青春」という語を使用する現代の日本人も、その多分に漏れない。

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