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地面師事件から考える司法書士による本人確認の美学(1)積水ハウス地面師事件④懸念

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2017年(平成29年)4月、T司法書士はS社のO次長から立会決済の依頼を受け、

4月24日に仮登記を申請し、手続きを終えた。

その後、T司法書士が代表を務める司法書士法人Jを名宛人とする内容証明郵便が複数届くなど、

売主Eの本人性が疑われるような事態が次々に起こった。

果たして、T司法書士は本登記まですることができたのであろうか?

調査報告書|積水ハウス株式会社 調査対策委員会

総括検証報告書|積水ハウス株式会社 総括検証委員会

立会決済 売主側司法書士ならどう動く?上 

目次

登場人物及び対象不動産

登場人物

E:対象不動産の所有者

O:S社マンション事業部次長

A:S社事業開発室課長(用地買収担当)

I:㈱I HD代表取締役

K:I HD㈱代表取締役 Iの交際相手

Z:Eの財務アドバイザーを名のる人物

T:司法書士法人J代表社員 EとI HD㈱の登記手続を担当

L:司法書士 I HD㈱とS社の登記手続を担当

G:Eの代理人弁護士

対象不動産

東京都品川区西五反田二丁目内にある土地 4 筆

(同土地上の建物は、売買の対象外)

最終打合せ

5月31日(水)に、G弁護士の事務所で、最終の打合せが行われた。出席者は、

売主:所有者Eとその財務アドバイザーを名のるZ

I HD㈱:IとK

S社:O次長とA課長

そして、T司法書士、L司法書士およびG弁護士であった。

Gは、対象不動産の内覧に体調不良で立ち会えなかったEからの依頼を受け、

代理人として内覧に参加した弁護士であるという。

本題に入る前に、A課長が、

「ゴールデンウィークは、どのようにお過ごしされたんですか」

と、Eに尋ねたところ、

「田舎にいました」

という応えが返ってきた。

「海外へ行かれてたんじゃないんですか?」

と、A課長が突っ込むと、Eはあわてて、

「せやった。ゴールデンウィークは海外に行ってて、帰ってからこないだまで田舎にいましてん」

と、早口で言った。すると、Zが、

「お母さん、最近ここにきてるんちゃう。大事な打合せなんやさかい、ちゃんとしてや」

と、頭を指差しながら言うと、満座は笑いに包まれた。

権利証

緊張がほぐれた後、T司法書士はL司法書士とともに、Eが持参した

パスポート
国民健康保険被保険者証
印鑑証明書
戸籍謄本
住民票
除籍謄本
納税証明書3通
固定資産評価証明書

を確認するとともに、Eに委任状と登記原因証明情報への署名をしてもらい、

司法書士がEとI HD㈱の実印を捺した。

特に、パスポートについては、紫外線調査を行った。

紫外線調査とは、パスポートの身分事項ページにブラックライトを照射して、

右上のパスポートナンバーの下に写真と同じ顔が浮かび上がることの確認である。

紫外線調査は問題なかったものの、T司法書士は、

「パスポートの氏名のローマ字が他とちょっとちゃうような気がします」

と、首をかしげつつ指摘した。

あと、重要な書類がない。

「権利証は?」

と、T司法書士が訊くと、

「権利証は内縁の夫が持ってるんやけど、いまかれとけんかしてて、よう取りに行けへんねん」

と、Eが応え終えるまえに、

「Zさんが同行してでも回収してください、って言ったじゃないですか」

と、O次長が口をはさんだ。

そこに、助け舟を出した者があった。

本人確認情報

「弁護士が本人確認情報を作成すれば、登記ができますよ」

そう話したのは、G弁護士であった。それに応じて、Zが、

「それやったら、そうしてもらおうや。なっ、なっ」

と、言うと、O次長は軽くうなずいた。

こうして、G弁護士が本人確認情報を作成することになった。

「住所、氏名、それから生年月日を書いてもらえますか」

「誕生日、忘れたわ」

Eはそういって、パスポートを見ながら生年月日を記入した。

T司法書士はその様子を訝しく思い、

「干支は何ですか」

と、Eに訊くと、

「うま年です」

と、即答した。

それを聞いて、T司法書士はおもわず、

「えっ」

と、声を挙げた。公文書の記載通り1944年生まれであれば、さる年のはずだからである。

(”さる”と”うま”は10年違う。それやと、見た目が若く見えるのは合点がいくなぁ……)

T司法書士の胸裡で疑念が膨らんだ。

「お母さん、最近ここにきてるみたいやねん。かなわんわ」

Zがそう言って、頭を指差しながら、

「お母さん、お馬ちゃん好きやさかい、頭ん中馬ばかりなんやろな」

と、笑いにして、その場を取り繕った。

拡がる疑念

T司法書士は自身宛の通知書を受領し、仮登記を申請した司法書士を特定できたことなどから

Eの本人性に疑念をいだいていた。そこで、

「パスポートの氏名のローマ字が他とちょっとちゃうような気がするなぁ~」

「生年月日を書き間違えてましたよね」

「干支ちゃいましたよね」

などとまわりに聞えるような声で何度もくり返して言い、S社のO次長及び A課長に翻意をほのめかした。

しかし、二人は大型案件で得られる利益しか頭になかったのか、

T司法書士の”ぼやき” に耳を貸さないまま決済を進め、

「先生、明日、登記よろしくお願いしますね」

と、言う始末であった。

T司法書士は胸裡の懸念が膨らむばかりではあったものの、

S社側からそういわれれば登記を申請するしかなった。

審 査

6 月 1 日(木)、T司法書士はL司法書士とともに管轄法務局に所有権移転の本登記の申請をおこない、

O次長に当該登記申請が受付された旨を報告した。

その後、6 月 6 日(火)に東京法務局から連絡があった。

申請していた所有権移転の本登記について却下する方針であるという。

その理由は、以下の通りである。

この年の5月9日に対象不動産の所有者E氏の親族(E氏の弟)から不正登記防止申出がなされた。

そこで、東京法務局が実体調査をおこなったところ、

G弁護士が作成した本人確認情報に添付していた国民健康保険被保険証の写しが

偽造されたものであることが判明した。

そのため、東京法務局は、

T司法書士らがおこなった所有権移転の本登記の申請が真正になされていないと判断したという。

それを受け、O次長らが保管していた権利証の写しを法務局へ持参して確認を求めた。

すると、法務局が当時使用していた印影とわずかに違う箇所があるという指摘を受けた。

そして、6月9日(金)に、東京法務局からこの所有権移転の本登記の申請を却下する旨の通知が書面で届いた。

補 遺

S社は6月9日及び12日にI HD㈱に対して、

対象不動産の売買契約を解除する旨の通知を発送した(6月13日到達)。

また、対象不動産の所有者E氏は6月24日に亡くなり、

E氏の異母弟N1氏及びN2氏が7月4日に相続登記を申請した。

最後に、平成29年8月時点における対象不動産及びI HD㈱の登記情報を示す。

「事件後につながりを消すためのペーパーカンパニーであった」

S社社外取締役らによる調査報告書において、I HD㈱をそう断じている。

対象不動産の登記情報(権利部 甲区)

1番 所有権移転 平成2年4月19日受付第11xxx号
原因 昭和50年12月23日相続
所有者 品川区西五反田二丁目x番w号 E
2番 所有権移転請求権仮登記 平成29年4月24日受付第12xxx号 
原因 平成29年4月24日売買予約
権利者 東京都千代田区永田町二丁目w番x号○×ビルxxx I HD株式会社
2番付記1号 2番所有権移転請求権の移転請求権仮登記 平成29年4月24日受付第12xxw号 
原因 平成29年4月24日売買予約
権利者 大阪府北区大淀中一丁目x番x号 S株式会社
3番 所有権移転 平成29年7月4日受付第19xxx号
原因 平成29年6月24日相続
共有者 東京都大田区多摩川一丁目x番w号 持分2分の1 N1
東京都大田区上池台五丁目w番x号   2分の1 N2
4番 2番付記1号所有権移転請求権の移転請求権仮登記の抹消 平成29年7月25日受付第21xxx号
原因 平成29年6月13日解除

I HD㈱ 登記情報

商号 I HD株式会社
本店 東京都渋谷区恵比寿四丁目x番w号
(平成29年6月27日東京都千代田区永田町二丁目w番x号○×ビルxxxから本店移転)
(さらに平成29年8月16日東京都港区元赤坂一丁目w番w号×○ビル△Fへ本店移転)
会社成立の年月日 平成22年10月12日
資本金の額 金1000万円
取締役 K 平成27年12月1日就任
取締役 P 平成29年6月26日辞任
代表取締役 K 平成27年12月1日就任

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