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地面師事件から考える司法書士による本人確認の美学(1)積水ハウス地面師事件②仮登記

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2017年(平成29年)4月中旬、T司法書士は、S社のO次長から立会決済の依頼を受けた。

この取引には売主とS社の間に両者を仲介する会社㈱I HDがあり、

売主と㈱I HDの登記手続きを行ってほしい、という。

ところが契約直前に、中間会社の名義を㈱I HDからI HD㈱に変えてほしいとの申出があった。

たしかにI HD㈱は実在したが、T司法書士は不安を拭えずにいた。

調査報告書|積水ハウス株式会社 調査対策委員会

総括検証報告書|積水ハウス株式会社 総括検証委員会

立会決済 売主側司法書士ならどう動く?上 

目次

登場人物及び対象不動産

登場人物

E:対象不動産の所有者

O:S社マンション事業部次長

A:S社事業開発室課長(用地買収担当)

I:㈱I HD代表取締役

K:I HD㈱代表取締役 Iの交際相手

Z:Eの財務アドバイザーを名のる人物

T:司法書士法人J代表社員 EとI HD㈱の登記手続を担当

L:司法書士 I HD㈱とS社の登記手続を担当

対象不動産

東京都品川区西五反田二丁目内にある土地 4 筆

(同土地上の建物は、売買の対象外)

売主らと面会

4月20日(木)、S社会議室に関係者が集まり、打合せが行われた。出席者は、

売主:所有者Eとその財務アドバイザーを名のるZ、

I HD㈱:IとK、

S社:O次長とA課長

そして、T司法書士とS社とI HD㈱の登記手続きを行うL司法書士であった。

EとK

T司法書士は、E、Z、I、Kそして L司法書士と名刺を交換した。

”おやじ” ばかりがそろった室内で、Kの存在はひときわ目を引いた。

まるで芸能人かと思ってしまうほどの美人で、視線は自然とKの方にむいてしまっていた。

当時者たちの話では、KはIと交際しており、しかも同棲しているという。

(華やいでいるようにみえるが、その一方で闇深い部分もあったりするかもしれへんな。)

T司法書士は、そんなおもいをいだきつつ、

「身分証を、拝見させていただけますか」

と、EとKにいった。

Kは、運転免許証とI HD㈱の印鑑証明書を提示した。

T司法書士は、L司法書士とともにそれらを確認し、

「問題ありませんね」

と、うなずき合った。

さらに、Eが提示した

パスポート
印鑑証明書
住民票
権利証のカラーコピー

を確認した。

――パスポートか。

そう思ったのは、日本人の場合、身分証といえば、運転免許証かあるいは健康保険証が多いからである。

(ただ、顔写真がついている分、健康保険証よりはましかな……。)

そんなことを思いながら、T司法書士はパスポートの顔写真とEの顔を見合わせ、

――問題なさそうやな。

と、判じながらも、Eにいささかの疑念をいだいた。

というのも、各公文書の記載によれば、Eは1944年(昭和19年)生まれの73才のようであるが、

眼前の女性はひと回り以上若く見えるように感じたからである。

(最近は実年齢よりもかなり若くみえる人がけっこう多いし、この人もたぶんそうなんやろ。)

T司法書士はそう思い、Eへの疑念を打ち消し、

「特に問題はなさそうですね」

と、L司法書士にいった。L司法書士は、

「そうですね」

と、応じ、

「失礼ですが、Eさんのご家族について教えていただけませんか」

と、Eに訊いた。これに対し、Eは、よどみなく家族関係を応えた。

T司法書士は、EとKに次回必要になる書類等を案内し、

「この権利証は、コピ-ですよね?」

と、Eに訊いた。

「そうです」

「仮登記には権利証は必要ではありませんが、念のため、次の時に原本をお持ちいただけますでしょうか」

「わかりました」

以上でT司法書士は、当事者らとの話を終えた。

住所を書き間違える

司法書士の話が終わると、O次長がEにアンケート用紙のようなものを差し出して、

「これに記入してもらえませんか」

と、いった。

Eはそれに応じ個人情報等を記入していったが、記載した住所をみて、

「何か、ちょっと違いますね」

と、O次長から指摘された。それに応じ、

「ほんまや、間違うてるで」

と、いったのは、Zであった。

「ほら、ここ、こうやろ」

と、Zが番地以降を指差しながらいうと、Eは、

「せやったな」

と、言って、番地以降を書き直した。

合意事項

当事者らは、4月24日(月)に売買契約を締結し、2件の仮登記を申請、

S社がIに手付金を支払うことで合意した。

また、この売買契約では、売主が建物を解体するとしたため、

残代金の支払いや本登記、引渡しは、余裕をみて7月31日(月)とされた。

仮登記手続

4 月 24 日(月)、S社会議室に、3日前と同じ顔ぶれが一堂に会した。

委任状にEとKの氏名を署名してもらい、司法書士が委任状と登記原因証明情報にEとI HD㈱の実印を捺した。

この席で、T司法書士とL司法書士は、Eが持参した

パスポート
印鑑証明書
住民票
権利証

(いずれも原本)を確認し、

「うん、特に問題はないですね」

「ええ、大丈夫ですね」

と、いい、それぞれのコピーを取ってもらい、

「これは今回の手続に必要ではありませんので、お返しします」

と、いって、パスポートと住民票ならびに権利証をEに渡した(仮登記には、権利証は不要なため)。

その後、T司法書士とL司法書士は管轄法務局へゆき、2件の仮登記を申請し、受領証をもらい、

O次長にその旨を連絡した。

登記の完了予定日は、5 月 1 日(月)であった。

――これでひと安心。

そう思い、法務局をあとにしたT司法書士であったが、

これから予期せぬ事態が次々に起ころうとは、思いもよらなかった。

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