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中国史人物伝

曹操と孫堅を撃破した名将 徐栄(後漢)

後漢末に皇帝の廃替を強行するなど専横の限りを尽くし、

――これほど暴虐非情な人はいないであろう(『三国志』)。

とまで評された董卓の配下に、いくさ上手な名将がいた。

徐栄である。

かれは反董卓連合軍の先鋒となった曹操軍を壊滅させ、洛陽を窺った孫堅軍も撃ち破った。

徐栄に敗れ、曹操は死を覚悟したという。

そんな名将であっても、悲惨な最期を避けられないのは、乱世のならいなのであろうか。

中国史人物伝シリーズ

目次

嚆 矢

徐栄は幽州玄菟郡出身で、中平六年(一八九年)に董卓が政権を握ると
中郎将(殿門で宿衛する武官)に任じられた。
徐栄は遼東太守が空席になったことを知ると、同郷で、もとの冀州刺史であった公孫度を董卓に推挙した。
公孫度は、中原の戦乱の影響をあまり受けない遼東で独立王国を築きあげた。
その端緒を、徐栄が開いたことになる。

曹操を凌駕

董卓は政権を握ると、皇帝の廃替を強行し、洛陽の貴戚から財貨を強奪したり、
婦女を淫略したりして暴虐の限りを尽くした。
関東の諸侯がこれに反発して、初平元年(一九〇年)正月に董卓打倒の兵を掲げた。
「賊を伐て」
徐栄は、董卓からそう命じられ、数万の兵を率いて東方へむかった。
三月、徐栄は滎陽の汴水で曹操及び陳留太守張邈の部将衛茲が率いる軍と出くわし、交戦した。
数万の徐栄軍に対し、曹操らの兵は一万にも満たなかったであろう。
「それ、ひとおもいに踏みつぶせ」
徐栄は兵力差にものをいわせて曹操軍に猛攻を加え、大勝した。
曹操は流れ矢に中たり、乗馬も負傷してしまい、死を覚悟した。曹洪が馬を降り、
「天下に洪がいなくても、公はいなければなりませぬ」
と、馬をさしだしてくれたため、曹操は何とか危地を脱することができた。
しかし、衛茲は戦死してしまった。
徐栄は、曹操が寡兵を率いながらも、一日中戮力して戦ったのをみて、
――敵はまだ簡単に攻めることはできぬ。
と、判断し、追撃をひかえた。
なにしろ、曹操はもと済南国の相で奮武将軍を称していたとはいえ、無位無官であった。
討ち取ったところでさしたる手柄にならないと判じてもおかしくないであろう。

孫堅を撃破

初平二年(一九一年)、徐栄は梁県で長沙太守の孫堅が豫州の兵を率いているのに出くわした。
徐栄は、これと交戦して撃破し、潁川太守の李旻を生け捕りにし、煮殺した。
その後、孫堅は態勢を立て直し、董卓の部将が率いる軍をつぎつぎに撃破し、洛陽へ到った。
董卓は配下の諸将を諸県に置いて関東の諸侯に備え、みずからは長安へ移った。

漢朝の臣

初平三年(一九二年)四月、董卓が司徒(首相)の王允の謀略にかかり、呂布に誅殺された。
徐栄は、王允が主宰する政府にとどまった。
この行蔵から察するに、徐栄は董卓の部将ではなく、漢朝の臣であったとするのが適当ではなかろうか。
董卓が権柄を握っていたから、その命令に従って戦をしていただけであり、
かれにすれば、董卓の命令に従ったわけではなく、朝命に従っていただけであろう。
そうすれば、董卓の部将と称されるのは、かれにとって不本意であろう。

最 期

初平三年(一九二年)五月、董卓の部将であった李傕・郭汜らが兵を率いて長安に迫った。
その報せを受けると、王允は徐栄、胡軫及び楊定に迎撃させようとした。
もと董卓の部将に対してもと董卓の部将をぶつけて潰し合わせようとしたのは、かれなりの名案であったろう。
王允は三人を呼びつけて、険しげな表情で、
「関東の鼠は何をしたいのか。そなたらが行って諭してこい」
と、命じた。
胡軫と楊定は董卓とおなじ涼州の出身で、もともと王允と折り合いが悪かったこともあり、
――何だ。あの言いぐさは――。
と、王允を憎んだ。
三人は数万の兵を率いて長安を出て東へむかい、新豊で李傕・郭汜らの軍を待ち構えた。
――あんなにいるのか。
新豊にあらわれた李傕・郭汜らの軍は、十万に達していた。
――戦は、兵数だけではない。
徐栄はおのれを奮い立たせて、敵軍に撃ちかかった。
しかし、衆寡敵せずであった。
敵の大軍を相手に、奮戦むなしく徐栄は戦場の露と消えた。

夢のあと

李傕・郭汜らが率いる大軍とまともに戦ったのは、徐栄の軍だけであった。
胡軫と楊定は傍観を決めこみ、徐栄が戦死すると、軍勢を率いて李傕・郭汜らに降伏した。
胡軫と楊定の兵を吸収し、さらに膨れあがった李傕・郭汜らの軍は西進し、
長安を包囲し、旬日もしないうちに陥落させた。
呂布は混乱に紛れて脱出したが、王允は不利な状況にあっても逃げずに献帝を護り続け、
董卓の恨みに報いるという名目で李傕・郭汜らに処刑された。
董卓の専横で乱れた漢朝を立て直そうとした王允の政権は、わずか四十日足らずで崩壊してしまった。

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